味溶液によって刺激された口腔内舌背面茸状乳頭にある味蕾内味細胞の味応答電位発生機序を明らかにすることが本研究の目的である。過去及び現在に至るまで、信頼される哺乳動物味細胞における味細胞内味応答記録に関しては本研究者以外の研究報告は皆無である。すでに本研究者は微小電極法による味細胞の電気生理学的研究によって以下の結果を得ている。1)味細胞は各種味刺激に対して様々な応答を示すが、蔗糖刺激に対しては脱分極応答で膜抵抗の増大もしくは変化を示さない。2)蔗糖刺激に対して脱分極、膜抵抗増大を示す味細胞でも食塩刺激に対しては脱分極、膜抵抗減少を示す。このことは同一味細胞でも蔗糖、食塩に対して異る受容または興奮発生のメカニズムの違いを推定させた。3)従来他の細胞系で知られている細胞内二次伝達候補物質の関与を調べるために各種細胞内二次伝達候補物質を微小電極法によって味細胞内に電気泳動法で注入するとc-GMP、c-AMPによって蔗糖応答と同様な味細胞内電位変化を記録することができ、主にc-GMPが味細胞内蔗糖応答発生に関与していることをつきとめた。4)細胞膜のK^+イオンチャネルブロッカ-として知られるTEAを味細胞内に注入すると蔗糖刺激と同様な電位変化が記録されることから、本研究者がすでに推定していた、蔗糖が味受容膜に吸着すると味細胞内c-GMP濃度が上昇し、K^+イオン透過性が減少することによって蔗糖応答が発生することが明らかとなった。しかし他の味刺激による味応答発生機構は不明であったが、本研究者によって、苦味に関してはIP_3の関与している可能性をすでに発見し、報告した。さらに食塩応答は別種の細胞内二次伝達物質の関与する可能性を強く推定させる実験結果を報告している。以上の研究結果は味細胞の味覚情報発現機構の解明に重要な知見を提供している。
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