ハイドロキシアパタイト(HAP)を骨移植材として使用した後に、歯牙の小矯正移動を行うことの可否を判断するため、ビーグル犬の上顎第一および第三小臼歯を抜歯し、そのスペースを利用して第二小臼歯近遠心に作製した人工的骨欠損内にHAPを移植した。歯槽骨の再生が起こった移植後3ヵ月に、当該歯牙に近心方向の矯正力を加えた。矯正力は4ヵ月間加え、1ヵ月ごとに1頭づつ屠殺した。4ヵ月間の移動後は保定期間とし、2ヵ月ごとに1頭づつ計3頭屠殺した。その結果、まず肉眼的には移植例のほうが歯牙の移動量は少なかった。次に病理組織学的にみると、圧迫側ではHAP周囲に再生した骨組織にも、対照例同様の破骨細胞性の骨吸収が観察された。またHAPには、多核の巨細胞が付着し吸収を行っているようであったが、経時的にみるとHAPの吸収量は少ないと思われた。それとともに、HAPと接した歯根には吸収が起こっていた。矯正移動後の保定期間には、歯根周囲に残存したHAPを伝わって伸びる骨組織により、歯根の骨性癒着が生じていた。一方牽引側では対照例と同様に、HAP周囲に再生した歯槽骨にも骨組織の添加がみられた。さらに対照例では、骨欠損の内部は結合組織で満たされ、歯槽骨の外縁は人工的骨欠損の状態のまま陥凹しており、骨組織による修復は不充分であった。これに対し移植例ではかなりの骨修復が認められ、対照例にみられた陥凹は存在しなかった。これより、HAP周囲に再生した骨組織にも、正常骨組織同様の破骨細胞による骨吸収が起こると考えられた。そして臨床的には、歯牙の小矯正移動を行う予定の歯牙に対して、牽引側にHAPを移植することは骨欠損を減少させる意味で効果的であると思われた。しかし圧迫側への移植は、歯根の吸収や骨性癒着を引き起こす可能性があるので避けるべきであると判断された。
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