研究概要 |
咬合の高い補綴物を装着した場合や少数残存歯症例における残存歯への負担が過剰になった場合, それが原因で惹起したと考えられる歯の知覚異常を歯科臨床においてしばしば経験する. しかし強い咬合接触が歯髄神経の感覚閾値に及ぼす影響についての基礎的研究やその発症メカニズムについては未だ解明されていない. そこで本研究において実験的に強い咬合接触を与えた場合の歯髄神経の感覚閾値変化を経日的に測定し, また強い咬合接触を与える前後における歯周脈波ならびに歯髄脈動変化を測定することにより歯の知覚異常発症のメカニズムを解明しようとした. 実験に先立ち, 咬合の高さ, 即ち咬頭嵌合位における顎間距離を測定するためのIPチェッカーを製作した. ついで顎口腔系に異常が認められない被験者について咬合の高い鋳造物を製作・装着し, 実験的に強い咬合接触を与えた. その際の挙上量をIPチェッカーにて測定し, 咬合接触強さの定量的な指標とした. (結果) 1.強い咬合接触を与える前後での被験歯の電気刺激痛覚閾値変化を調べた結果, 殆んどのものは閾値が低下したが, 約10%のものは閾値が上昇し, 約10%のものは閾値は変化したが一定の傾向を示さなかった. 2.電気痛覚閾値変化と歯周脈波の振幅値の変化には一定の傾向がみられた. 即ち, 歯周脈波の振幅値の減少とともに歯の痛覚閾値は低下する傾向にあり, 振幅値の回復あるいは増加とともに閾値は回復した. 以上より強い咬合接触により歯の感覚に異常が生じることが証明された. また歯周脈波の振幅の変化は強い咬合接触により歯周組織に生じた圧迫や循環障害などが原因と考えられるため, これらが歯の感覚閾値に何らかの影響を与えていると思われる.
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