研究概要 |
本研究は、高年齢の患者が新義歯の装着という口腔環境の変化に対して、順応あるいは適応する経過を客観的に評価することができるような臨床検査法を確立するのに必要な基礎資料を得ることを目的とする。 無歯顎者1名に実験義歯を製作して、実験義歯装着後の咀嚼運動機能を経時的に長期間にわたって測定した。試験食品は、レーズン・ピーナッツ,チューインガムである。各食品咀嚼時の下顎運動記録と筋電図に設けた計7種の時間的計測項目(開口相・閉口相・停止相・周期、筋放電持続時間・同間隔時間・Interval-2)の平均値と散布度を指標として求めて、各指標の経時的推移を比較検討し、以下の結論を得た。 1.同一義歯床で臼歯部人工歯のみが交換可能な実験義歯を製作して、咬頭傾斜角度が30°の人工歯を用いた義歯を旧義歯(30度義歯)とみなして装着した後に、20°人工歯に交換した義歯を新義歯とみなして装着して、長期間にわたり実験記録を行った。2.臨床検査の試験食品には、嚥下閾と咀嚼動作の難易度からみて、レーズンが最も適している。3.咀嚼運動機能を対象とした臨床検査では、第1回目の検査値は参考程度に留めるのが安全である。4.新義歯に対する生体反応は、下顎運動に先行して筋の機能に現われる。5.無歯顎補綴の臨床検査には、下顎運動および筋活動の時間的計測項目が極めて有効な指標となるこが示された。特に、下顎運動の閉口相,停止相,周期および筋活動の筋放電持続時間の平均値は、口腔環境の変化に対して敏感に反応を示す指標である。5.人工臼歯の咬頭傾斜角度は、咀嚼運動機能に影響する。その程度は、筋放電持続時間に強くあらわれ、20度義歯は30度義歯より実時間が延長した。7.旧義歯で形成された、いわゆる習癖は新義歯になっても少なくとも2週間ほど残留すること、義歯の"慣れ"の現象は新義歯装着8週目前後から生じることを認めた。
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