研究概要 |
歯科精密鋳造は鋳造用合金の鋳造時収縮を埋没材の硬化時, 加熱時膨張を応用して補償するという考えのもとに発展している. したがって埋没材の硬化時膨張の不安定は歯科精密鋳造に大きく影響を与える. この硬化時膨張値は埋没材の練和条件 すなわち混水比, 練和速度 練和時間などによって影響を受けることが判明している. さらに興味あることは一度発現した硬化時膨張が練和条件によって経時的に反転して, 減少していくことを見い出した. そしてこの膨張の経時的な反転率は埋没材の最大硬化時膨張が発現するまでの時間が120分以内のものは その発現した膨張の経時的反転現象の割合が大きく, しかも硬化時間が短くなる程 反転率が大きい. これは埋没材硬化体の密度が影響していると考えられたので 硬化体中の空隙の発生状況を観察すると共に 石こうの硬化時間調節剤の一種であるクエン酸ナトリウム溶液で練和して, 埋没材の硬化時膨張の反転現象を測定した. その結果, 水で練和した場合に比較して, 0.05%クエン酸ナトリウム溶液で練和した埋没材の最大硬化時膨張発現までの時間は延長し, それに伴い 硬化時膨張値は大きくなり, 経時的反転の割合は著しく減少する結果を示しこのことにより硬化時間と大きな相関関係があることが判明した. またクエン酸ナトリウム溶液で練和した埋没材の硬化体を走査電子顕微鏡で観察したところ二水塩の結晶は大きく, それに伴って 空隙率が同一条件で水で練和した場合に比較して, より大きいことが判明した. さらに硬化時膨張の反転率の影響が鋳造精度にどの程度影響を及ぼすかを確認するため 実際に鋳造実験を試みたところ その影響は大きく, 硬化時膨張の反転率の大きいもの程 鋳造精度は劣り合金の収縮を補償できない.
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