62年の研究で歯科鋳造用埋没材の硬化時膨張は練和条件によって、一度膨張が発現した後、経時的に反転し減少することを報告した。一つの硬化時膨張の経時的反転減少は練和条件によって異なる。クエン酸ナトリウム溶液で練和したものは硬化時間が長く埋没材中のせっこうの結晶は大きく、数も多くなり硬化時膨張の経時的減少を示さない。一方標準混水比で練和速度を速くすると、硬化時間は早くなり、膨張の経時的減少を示した。このようなことから、発現した膨張の反転減少率は硬化時間と相関関係がある。さらに埋没材硬化体中のせっこうの結晶が小さいもの程、また空隙率が大きいもの程、減少する割合が大きいことが判明した。この硬化時間の変化する基本的要素は(1)埋没材中のせっこうの溶解度をかえる。(2)せっこうの結晶核の数をかえる(3)せっこうの結晶速度をかえることである。硬化時間と膨張の反転減少との間に相関関係があることは上記の要素を考慮しなければならない。その確認実験を混水比、練和速度、練和時間、遅延剤の添加などにから、せっこうの結晶形態、膨張発現までの誘導期の時間などとの関係より進めた。その結果、混水比を一定にして練和速度を速くすると誘導期は短縮され、結晶形態も細かくなり、硬化時間の短縮と膨張の反転減少がおこる。一方遅延剤を添加すると逆に誘導期は延長し、結晶の成長も遅れるが、結晶はあまり細かくならず、膨張の反転減少を示さない。これらの結果を鋳造体の鋳造精度より臨床的検討を加えた、硬化時膨張の反転減少の大きいものは鋳造精度が劣り、反転減少しないものは鋳造精度は良好であった。膨張の反転減少に伴なって、原型のワックスが応力をうけ、変形することも考えられ、直ちにこの減少が直接鋳造精度に影響をおよぼすとはいえないが、重大な要因となることは事実であろう。従って膨張が経時的に現象させない練和条件を採用して埋没することが必要である。
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