癌転移のメカニズム解明のために、我々は当科で、ヒト口腔偏平上皮癌株細胞のうち、invivoで特にリンパ節に高頻度で転移するsubline HSC-3LMF4.5を樹立し、この細胞表面に特徴的な抗原性の検索を行い、免疫組織学的、生化学的検討を行った。LMF4.5細胞を免疫原として6種類のモノクローナル抗体産生ハイブリドーマを得た。2回以上クローニングを行いその培養上清によりヒト口腔偏平上皮癌組織や正常口腔粘膜の凍結切片、口腔偏平上皮癌由来培養細胞に対して免疫組織化学的に検索した。その結果、これらの抗体は2グループに分類された。第1のグループの3抗体(8A123A1、10B2)は正常粘膜基底膜側および癌組織に発現している抗原を認識してあり、培養細胞では細胞周囲の突起や細胞内まで染色された。第2のグループの3抗体(4D11、11A8、12E9)は正常粘膜有棘原から角化層、癌組織の角化傾向の強い癌真珠などを認識しており、培養細胞では細胞密度の高い部分が染色され、染色されない細胞も存在した。そこで癌組織非角化部を認識する第1グループの抗原の検索を進め、免疫原細胞を用いた。ウェスタンブロット法により抗体が細胞膜に存在する20K付近のタンパクの2本のバンドを認識していることを確認した。また免疫電顕により正常粘膜基底細胞層を観察したところ、8A12が基底膜と基底細胞間の接着装置であるヘミデスモソームと特異的に反応しており、細胞間接着装置デスモソームとは反応しないことが確認された。本抗体の認識するヘミデスモソーム特異の構成タンパクは、上皮細胞が癌化することによって、極性を失い正常に発現されなくなっていことが示唆された。本抗体の詳細および他の5抗体について検索することにより、ヘミデスモソームの構成だけでなく、細胞の癌化、転移機構、細胞極性など細胞生物学的研究の新しい展開につなげていきたい。
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