昨年度決定した実験条件に基づいて、口蓋裂術後患児で開鼻声を呈する者の母音および鼻母音の音響物理的解析を行った。 1)母音および鼻音化母音の解析方法 対象群:口蓋裂形成手術後の患児でSAを装着し、聴覚印象でも開鼻声を認めた6歳から12歳の患児10例。 対照群:対象群に対応する年齢範囲の正常児で、聴覚的印象で開鼻声の認められなかった10例 分析音:母音ア、イ、ウおよび鼻音化母音(lmlに後続する母音)ア、イ、ウの6音で、分析範囲は0〜4kHz帯域とした。分析装置:リオン社製2チャンネル騒音振動解析装置。この装置を用いて口腔より発した音声と鼻骨振動の2系統の信号から開鼻声の音響物理的特徴を解析する。 資料とした音声の採取は、各音声を5回ずつ録音し、そのうちの安定した3回の分析の平均値を採用した。 2)対照群より得た資料の音響物現的特徴:10例の母音アと鼻音化母音アは、音声信号では1900Hz附近から3900Hz附近の成分が鼻音化母音の方が有意(t検定5%水準)に強くなっていた。鼻骨振動では275〜325Hz附近で強くなっていた。母音イと鼻音化母音イでは音声信号は550〜1950附近の成分が、鼻音振動では550〜650Hz附近の成分がいずれも鼻音化母音の方が有意に強かった。ウでは全帯域で両母音間に差は認められなかったが、鼻骨振動では525〜650Hz附近で有意に鼻音化母音の方が強かった。 3)実験結果:対象群より得た資料の分析結果では、母音アと鼻音化母音ア、母音イと鼻音化母音イ、母音ウと鼻音化母音ウの成分の比較において、音声信号にも鼻骨振動にも相違は認められなかった。 4)今後の研究の展開:対象群10例中5例は鼻咽腔閉鎖不全に対する2次手術をうけたので、現在引続き音声の分析を行い変化を追跡中である。
|