1.ヒト唾液腺癌ヌードマウスの系において、dB-cAMPとCDDPおよびMMCとの併用処理を行い、腫瘍増殖の動態を検討すると共に、検体について細胞特異マーカーの検索を行った。その結果、CDDP8mg/kg単独投与では投与17日目に腫瘍増殖抑制率65%、投与21日には腫瘍増殖抑制率41.5%であるのに対し、CDDP8mg/kg+dB-cAMP1mMの0.1ml局所投与併用では、21日目の腫瘍増殖抑制率は80%以上を示した。摘出腫瘍検体についての細胞特異マーカーの検索では、抗癌剤投与の有無にかかわらず、dB-cAMP局所投与群において、ミオシン、S-100蛋白β鎖陽性細胞が増加し、ラクトフエリン、CEA、セクレタリコンポネント陽性細胞は減少を示した。 2.in vitroの系ではSCE標本について、算定細胞数を更に増やし、有意差検定を行うと共に、コローニ形成率との相関関係について検討した。その結果、SCE誘発率は、CDDP0.05μg/mlあるいはMMC0.01μg/ml各々について、dB-cAMPを併用しない群に対し、dB-cAMP0.3mM併用処理を行うと、P<0.001の危険率で有意な増加を示した。またSCE誘発率とコロニー形成抑制率との間には5%以下の危険率で有意な相関関係を認めた。 3.HSG細胞をCDDPあるいはMMCとdB-cAMPとを併用もしくは各々単独で62時間処理した場合の、ras癌遺伝子産物p21^<ras>蛋白の発現について検討した。その結果、未処理HSG細胞でのp21^<ras>蛋白発現量を100とするとCDDPの0.05μg/ml処理で92.1±6.5、MMCの0.01μg/ml処理で91.9±12.3、0.5mMのdB-cAMP処理で57 .5±8.5に対し、上記濃度のCDDP+dB-cAMPでは30.0±19.4、MMC+dB-cAMPでは12.0±12.9と著明なp21^<ras>蛋白発現の抑制が認められた。また細胞内Cyclic AMP濃度は、dB-cAMP処理濃度に依存することが示され、cyclic AMP濃度が0.71pM以上では、p21^<ras>蛋白の発現は認められない事が明らかとなった。この抗癌剤とdB-cAMPによるp21^<ras>蛋白発現の抑制は、コロニー形成抑制率とも類似した傾向を示した。
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