ヒト唾液腺癌培養細胞株であるHSG細胞を用い、研究を行った。1.HSG細胞を抗癌剤であるマイトマイシンC(MMC)あるいはシスブラチン(CDDP)および分化誘導剤であるdibutyryl cyclic AMP(dB-cAMP)を各々単独あるいは抗癌剤とdB-cAMPとで併用して62時間処理した後の、細胞増殖抑制、軟寒天培地中でのコロニー形成率、姉妹染色分体交換(SCE)誘発率およびras癌遺伝子産物であるp21^<ras>蛋白の発現について検討した。その結果、MMCあるいはCDDP単独処理で細胞増殖抑制の増強、SCE誘発率の上昇、コロニー形成率の低上が濃度依存的に認められた。dB-cAMP単独処理では、細胞増殖抑制の増強、コロニー形成率の低下を認めたがSCE誘発率には変化を認めなかった。これに対し、抗癌剤とdB-cAMPとで併用処理すると、細胞増殖抑制は更に増強、コロニー形成率も更に低下するの加えて、SCE誘発率も著明に増加することが認められた。またp21┣D1ras蛋白の発現は、抗癌剤処理で軽度抑制、dB-cAMPで中等度抑制されるのに対し、抗癌剤とdB-cAMP併用処理では著明な抑制を認めた。2.細胞形態並びに細胞特異マーカーの検索において、抗癌剤の有無にかかわらず、dB-cAMP存在下で培養した時にのみ、形態的変化と特異マーカーであるミオシン、S-100蛋白β鎖の発現を認め、CEA、ラクトフェリン、セクレタリコンポネント陽性細胞は減少した。3.HSG細胞1×10┣D17┫D1個をヌードマウス背部皮下に移植して、ヒト唾液腺癌ヌードマウスモデルを作製した。このヌードマウス腫瘍に抗癌剤単独あるいは抗癌剤とdB-cAMPを併用投与を行い、抗腫瘍効果を検討した。その結果、CDDP8mg/kgの腹腔内投与により、3日目より腫瘍増殖抑制を認め、投与17日目には腫瘍抑制率は65%となった。dB-cAMP単独投与では、投与21日目には腫瘍抑制率は66%であり、抗癌剤とdB-cAMP併用により、80%以上の抑制が得られた。また特異マーカーの変化はin vitroの結果に近似していた。
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