研究概要 |
口腔粘膜癌と上顎洞癌を含む頭頸部扁平上皮癌121例組織切片でのras癌遺伝子産物p21発現に関してp21特異的ラット単クローン抗体(Y13-259)と抗ras.p21ヒツジ血清を用いて免疫組織化学的に検索した結果以下の所見を得た. 1.121例中59例において明らかなp21発現がみられたが, 口腔白板症44例及び正常口腔粘膜58例においては全く発現は認められなかった. 2.121例のうち治療後5年以上経過し非担癌状態にある27例と死亡症例16例の計43例について原発巣でのp21発現と臨床病態・予後との関連性につき検索したところ, p21発現をみる症例では23例中14例が予後不良であり, p21発現をみない症例では20例中わずか2例が予後不良であった. この間には明らかな相関関係(P<0.001)がみられ, p21発現を示す症例は予後不良の傾向をとることが明らかとなった. 3.病理組織分類の面から解析するとI度+II度症例(P<0.05)とIII度症例(P<0.0005)でのp21発現は予後不良との間に相関性を認めた. 4.臨床病期分類とp21発現との間にはIII期(P<0.05)及びIII期+IV期(P<0.005)とにおいて総計的に有意差を認めた. 5.43例における原発巣でのp21発現と所属リンパ節転移との間には正の相関性がみられた(P=0.06). 6.p21発現はタバコの喫煙とも相関していた. 一方, 上顎洞癌患者の治療前, 治療中の腫瘍組織内p21の検出を免疫組織化学的手法及びlmnanoblotlingにより行なったところ, 治療前の生検組織においてはほとんどすべての腫瘍細胞に強いp21発現がみられたが, 放射線療法・免疫化学療法を行なった後に摘出した腫瘍組織においてはp21発現の著しい低下或いは消失が確認された. 以上述べた研究結果より, 頭頸部扁平上皮癌においてp21発現様式は癌患者の臨床病態・予後と密接に関連していることが明らかとなり, 腫瘍組織でのp21発現を検索することより腫瘍の臨床的悪性度を評価し得る可能性が示唆された.
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