研究概要 |
1.上顎洞癌患者での治療前並びに放射線治療、免疫化学療法施行後の腫瘍摘出組織について免疫組織化学的手法およびImmunoblottingにより、p21発現の有無を検索したところ、治療前の腫瘍組織においてはほとんどすべての腫瘍細胞に強いp21の発現がみられたが、上記治療後の腫瘍組織においてはp21発現の著しい低下ないしは消失が認められた。すなわち、放射線・免疫化学療法の治療効果をp21の発現を指標として評価し得る可能性が示唆された。 2.ヒト培養唾液腺癌細胞(HSG)は高いレベルでp21を発現している。またHSG細胞はdibutyryl cyclic AMPにて処理することによりdose-dependentに軟寒天培地中でのコロニー形成能が低下する。そこでコロニー形成能の低下とp21の発現との関連性について検索したところ、コロニー形成能の低下に伴ってp21の発現も減少することが明らかとなった。すなわちHSG細胞においては細胞内cAMPレベルを上昇させることにより腫瘍原性の低下が惹起され、その際p21の発現も同時に抑制されることが明らかとなった。 3.HSG細胞は介在部導管上皮細胞の特性を有する細胞である。このHSG細胞を5-azacytidineにて処理することにより、ヒト唾液腺を構成する筋上皮細胞或いは腺房細胞の特性を保有する細胞が誘導されることが既に明らかにされている(Cancer Res.,47,1987)。そしてこれら分化細胞は親株であるHSG細胞に比較して軟寒天培地中でのコロニー形成能の低下を示す。そこで親株細胞と分化細胞における腫瘍原性の相違をcAMPを介する細胞内情報伝達系における細胞膜中グアニンヌクレオチド結合蛋白の面から解析した結果、分化細胞においてはHSG細胞に比較してGS蛋白の量的増加のおこっていることが明らかとなった。
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