1.口腔粘膜癌と上顎洞癌を含む頭頸部扁平上皮癌121例の病理組織切片でのras癌遺伝子産物p21発現に関してp21特異的単クローン抗体を用いて免疫組織化学的に検索した結果、以下の所見を得た。(1)検索した121例中59例においてp21発現が認められたが、口腔白板症及び正常口腔粘膜症例においてはp21発現は全く認められなかった。(2)治療後5年以上経過し非担癌状態にある症例と死亡症例でのp21発現と病態・予後との関連性につき検索したところ、p21発現をみる症例は予後不良であった。(3)病理組織学的に低分化癌でp21発現をみる症例は予後不良であった。また臨床病期分類で進展癌でのp21発現は予後不良との間に相関関係が認められた。 2.上顎洞癌患者での治療前並びに治療後での腫瘍摘出組織についてp21発現を検索したところ、治療前にはp21発現が明らかに認められたが、治療後においてはp21発現の低下がみられた。すなわち、癌治療の治療効果をp21の発現を指標として評価し得る可能性が示唆された。 3.ヒト培養唾液腺癌細胞(HSG)は高いレベルでp21を発現している。またHSG細胞はdibutyryl cyclic AMPにて処理することによりdose-dependentに軟寒天培地中でのコロニー形成能が低下する。そこでコロニー形成能の低下とp21の発現との関連性について検索したところ、コロニー形成能の低下に伴なってp21の発現も減少することが明らかとなった。その際、細胞内cAMPレベルが重要な役割を担っていることが確認された。 以上、本研究によって得られた知見はras癌遺伝子産物であるp21が癌患者の臨床病態・予後と密接な関連性を有していること、また培養腫瘍細胞の腫瘍原性と相関関係を有することを示しており、腫瘍組織或いは腫瘍細胞でのp21発現を検索することにより腫瘍のもつ悪性度を評価し得る可能性が示唆された。
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