研究概要 |
本研究は上皮細胞の種類, 部位, 分化度によって異なるといわれているケラチン蛋白を分析することにより, 口腔粘膜(舌, 頬, 口蓋, 歯肉)での加齢変化を解明する目的で行なった. 研究材料:20例の0〜87歳までの剖検症例より得た口腔粘膜(舌, 頬, 口蓋, 歯肉)で, 一部を10%中性緩衝ホルマリン液で固定し, 組織学的検索に用いた. 残りの材料はケラチン蛋白の抽出に用いた. なお, ケラチン蛋白の抽出法はWinterら(1980年)の方法に準じた. 研究結果:ケラチン蛋白の抽出に先だち, Balmain(1976年)の酢酸法で粘膜上皮を採取したが, 酢酸の濃度と浸漬時間において, 上皮の剥離状態に差が認められた. とくに, 0歳の1例と高齢者の数例においては粘膜上皮は粘膜下組織とともに膨化・融解した状態となり, 採取困難であった. この点ラットでの予備実験の結果とは異なっていた. 各粘膜上皮についての組織学所見と電気泳動法におけるケラチン蛋白のケラチンPolypetideの分布状態は, 舌では加齢によって糸状乳頭の尖端は平担化し, 糸状乳頭間の角質層は厚くなっていた. ケラチンPolypetideは52Kと57Kを主とし, 45, 48, 51, 55Kが認められた. 頬では加齢により, 粘膜上皮は薄くなる傾向がみられた. Polypetideは52, 57Kを主成分に, 45, 48, 51Kが認められた. 口蓋と歯肉では加齢によって上皮層はわずかに薄くなる傾向がみられ, 上皮突起の形, 方向性は不規則であった. Polypetideは47, 49, 55Kを主とし, 44, 52, 54, 62, 63, 68〜69Kが認められた. 全般的に, 口腔粘膜上皮における加齢変化は上皮の菲薄化と上皮突起の乱れ, 角質層の肥厚として認められた. Polypetideは舌と頬, 口蓋と歯肉でそれぞれ類似し, その加齢変化は定性的変化ではなく, 定量的変化として認められた.
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