目的:小児歯科臨床において、乳歯歯髄炎の臨床診断基準は確立されているが、未だ歯髄の炎症の波及状態を正確に把握することは難しい。しかし、より適切な歯髄処置を行うためには、歯髄の炎症の波及状態を客観的に、的確に診断する方法が必要である。そこで、生活歯髄切断処置を前提とした乳歯齲蝕歯の冠部歯髄内の血液像及びpH濃度による乳歯歯髄炎の鑑別診断について検討した。 方法:対象は100症例に増やした。長坂の臨床診断基準に従った診査後、生活歯髄切断処置が必要とされた乳歯齲蝕歯を通法に従って髄腔開放後ガラス毛細管にて採血し、作製した薄層塗抹標本を検鏡して各種白血球の百分率を算出した。一方、鋭匙にて可及的に摘出した冠部歯髄の病理像を炎症程度別に(-)〜(+++)の4段階に分類し、血液像、冠部歯髄切断時の止血困難性、術後の臨床的及びX線学的経過観察結果と比較検討した。また、冠部歯髄内血液のpHについては、微小電極を用いて口腔内で直接に測定する方法と、採血後に稀釈して測定する方法を行い、検討した。 結果:1.歯髄内血液像では、リンパ球の比率が高く、歯髄炎の指標とした。2.冠部歯髄の病理像では、(-)はなく、(+)37例、(++)47例、(+++)16例だった。3.血液像では、(+)(++)はリンパ球の比率は60%以上が多かったが、(+++)はいずれも57%未満だった。4.術後経過観察の結果、生活歯髄切断処置で適切と思われた(+)(++)は不良12例(28.6%)に対し、不適切と思われた(+++)は不良4例(100%)だった。5.冠部歯髄切断後の止血困難症例は(+)12例(32.4%)(++)12例(25.5%)に対し、(+++)は10例(62.5%)と高率であった。6.冠部歯髄切断後、止血困難かつリンパ球の比率が57%未満では抜髄処置へ移行した方が良いと考える。7.口腔内で直接歯髄内血液のpHを測定したが、一定の値を得られなかった。8.髄腔開放後、ガラス毛細管にて採血し、蒸留水で稀釈して血液のpHを測定する方法は、臨床応用が十分可能と考えられた。
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