従来より、咀嚼能力の測定は天然食品を用い、篩分けの後の篩上げ重量%の比較で評価されるのが主体であった。しかしこの方法は試料の物性が不安定というだけでなく、物理学的立場から論理上の矛盾がある(昭和61年、日本口蓋裂学会および日本矯正歯科学会で、研究代表者中島ら発表)。本研究では外力に対して一定の被破壊性をもつ、色素内包顆粒を製造、これを一定条件下で被検者に噛ませ、顆粒内より漏出した色素量を一定量の水溶液として、その濃度より破壊に要したエネルギーを測定する方法を開発した。濃度測定は比色計を用いたが、その中に演算回路を組み込み、咀嚼能力をジュールまたはカロリーで表示できる専用器に改造した。測定方法は、顆粒をゴム袋の中に埋入した咀嚼タブレットを15回噛ませる「タブレット法」と、顆粒を直接噛ませる「顆粒法」の2通りとした。本法を用いて以下の実験を行った。 1.シャルピ破壊試験器によって、咀嚼タブレットを器械的に「咀嚼」させたくり返し試験によると、本法(タブレット法)の測定誤差は、約2%と推定された。 2.15名の成人男女を被験者として、本法(タブレット法)を用いて能力測定を行ったところ、測定の変動は比較的大きく、平均92%であった。最も大きな個人内変動を示した者は16.9%で、最も小さな者は、3.6%であった。この変動は、他の機能測定と同様に、被験者の咀嚼能の再現性が比較的低いことに起因するものと考えられた。 3.咬合状態と咀嚼能力との関係を調べる目的で、ワックスバイトの圧印面積と本法の相関に係を、本学学生を対称に行った。カプセル法と顆粒法の相関は高く(r=0.78)、両法いずれの値も、圧印面積より咬合点数との間で高い相関を示した。咀嚼面積の測定法を改良して、この関係を更に検討したいと考えている。
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