研究概要 |
分子内の適当な位置に二個の不飽和カルボニル基が存在する化合物は次の三条件(A)lithium hexamethyldisilazide等のリチウムアミドとの低温処理, (B)t-butyldimethylsilyl trifluoromethanesulfanate及びEt_3Nとの低温処理, (C)Me_3SiCl, Et_3N及びZnCl_2との加熱によって二回の連続する共役付加反応を行うことを発見した. 本反応は好収率, 高立体選択的に多環性化合物を生成することが特長であり, 協奏的付加環化反応では合成し難い立体障害の大きい化合物の製造にも適している. また反応条件の全く異なる上記三方法を用いることが出来るため, 様々な基質に対して適用出来る. そこで本反応(分子内double Michael反応)を利用して, 生理作用に富み, 構造化学上興味深い天然有機化合物を対象に選んで以下の合成研究を行った. (1)エストラン類の合成:光学活性なインダンジオンを出発原料としてステロイドのCD環上の立体化学を満足するビニルケトン・不飽和エステルを合成し, これを反応条件(C)に付してステロイドのAB環を構築し, エストランへと導いた. (2)ペンタレネン及びペンタレネン酸の全合成:シクロペンテノンから誘導したビスエノンを反応条件(C)に付して, 三環性化合物とし, 環縮小後, アンギュラー型トリキナンセスキテルペンであるペンタレネン及びペンタレネン酸へと導いた. (3)アコニチンアルカロイドのCDF環部の合成:不飽和エノンエステルを反応条件(A)によって三環性化合物とし, 立体選択的な転位反応を経てアコニチンアルカロイドのCDF環を構築した. (4)(-)-チロホリンの不斎合成:不斎補助基を持つ不飽和エナミドエステルを反応条件(B)に対してインドリチジン環を面選択的に合成し, これより抗腫瘍性アルカロイドである(-)-チロホリンへと導いた. これは天然型チロホリンの最初の全合成である.
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