研究概要 |
スズ原子と酸素原子あるいは窒素原子との間の分子内hypervalent相互作用により, シス型1,3-2置換シクロヘキサン類を, 通常は非常に不安定で得難い1,3-ジアキシャルコンホーマーに固定するという全く新しい方法論の開発に成功した. Sn→O(またはN)相互作用による5員環の形成がその推進力となっており, スズ原子のルイス酸性を増大させるべく, そのリガンドとしてはハロゲン類を活用した. 低温での結晶のX線解析による結果は, クロロホルムやテトラヒドロフラン溶液中での立体化学(ジアキシャル型)と一致し, スズ原子はハロゲン類と酸素置換基(あるいは窒素置換基)とをアピカル位に配する三方両錐型構造をとっている. 各種温度での詳細なNMRスペクトルの解析により, ジアキシャル型はジエクアトリアル型との素早い平衡関係にあり, 特に低温ではジエクアトリアル型の割合が増加することが判明した. スズ原子と同族のケイ素原子やゲルマニウム原子を用いた場合には, ジアキシャル型の固定化効果は全く見られない. これはスズと比べケイ素やゲルマニウムのサイズが小さいことによるものと考えられる. Hypervalent相互作用によるジアキシャル構造の固定化という方法論を基盤とし, 分子内オレフィンのジヒドロキシル化反応における立体化学の制御にも成功した. 即ち, 分子内hypervalent相互作用によりスタニル基をアキシャル位に固定したシクロヘキセン類の酸化反応では, 試薬, 例えばOsO_4は選択的にスタニル基の反対側から二重結合を攻撃し, 高立体選択的な酸化反応が可能となる. 本方法論は非環状化合物の反応の立体制御にも活用し得るものと期待される. また, 今回合成したスズ化合物には, マウスP388白血病に対して抗腫瘍活性を示すものが見出されており, 今後の展開が大いに期待される.
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