1.特定の塩基を認識する機構の研究:RNaseT_1のグアニン塩基認識部位のアミノ酸変換体のうち、Tyr45→Trp変換体とGlu46→Ala変換体はアデニン塩基を僅かであるが認識し易くなっていた。より大きな特異性の変換を目指し、両者を組合わせた、(1)Tyr45→Trp、Glu46→Gln変換体、(2)Asn44→Asp、Tyr45→Trp、Glu46→Gln変換体を作製した。(1)(2)共にpApC切断活性はpH4.6の条件下ではTyr45→Trp変換体、Glu46→Ala変換体に比べ低下していたが、pH7.5では増加していた。pApC切断活性/pGpC切断活性の相対活性で比較すると、RNaseT_1に比べ数10倍から数1000倍、特異性は変化していた。しかし活性の絶対値はRNaseT_1に比べ著しく低下していた。活性の低下をできるだけ抑えたまま、特異性を変えるには、今後、RNaseT_1と基質類似体の複合体のより精密な構造の情報が必要と考えられる。 2.RNA鎖切断反応機構の研究:カビ由来のRNaseに共通に存在し、触媒残基と推定されるHis40、His92、Glu58、Arg77のうち前3者について、前年度までにRNaseT_1を基にした各種変換体を作製し、それら残基の機能について考察してきた。残りのArg77を調べるため、同じく塩基性のアミノ酸のLysあるいは電荷を持たないThrに変換した。いずれもpGpCに対する切断活性はほぼ完全に失われ、Arg77は非常に重要な機能を持つことを示していた。更にLys77変換体について詳しく解析すると、反応速度定数、ならびに基質誘導体との解離定数がいずれも約1桁大きくなり、Arg77は基質の捕捉に重要であることが示された。今までの結果を総合して考えると、RNaseT_1のRNA分解機構は「まずArg77が基質のリン酸部分を捕え、次いでTyr42〜Tyn45のループ部分でグアニン塩基を認識し、His40とHis92の酸塩基触媒により、ホスホジエステル結合を切断する」と考えられた。
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