我々は数年来強心配糖体の化学修飾と強心作用の相関について研究してきたが、今回は海葱の成分であるプロシラリジン(Ps)の副作用を軽減するため、ラクトン環の化学る修飾を行ない、それらの強心作用を犬腎のNa^+、K^+-ATPaseの阻害活性を示標として測定した。また強心作用の機序との関連から、細胞内へのNa^+イオン輸送能が大きいモネンシンについても化学修飾を試み、NaBr錯体に誘導したのち疑環状構造を明らかにした。 1 ラクトン環の化学修飾 Psに親ジエン試薬であるdimethyl aretylenedicarboxylate(DMAD)を反応させたところ1、4-環状添加物が芳香化してフタル酸ジメチルが得られたので、さらにエステル基をアミドに導き水溶性を高めて酵素活性を測定した。一方ラクトンをラクタムに変換してDMADを作用させると環状添加体だけが得られた。またラクタム誘導体も多数合成した。 2 モネンシンの化学修飾 末端カルボキシル基と各種アミノ酸との縮合体をNaBr錯体としたのちX線で擬環状構造を解析したところ、モネンシンNaBr錯体とは全く異なり3位メトキシ酸素がNaイオンとの共有結合形成に関与している事実が分った。また^<23>Na-NMRを用いてこれら修飾体の赤血球内へのNaイオン輸送能を測定したところ、モネンシンとほとんど変わらなかった。 3 薬理試験 ラクトン環を化学修飾した化合物はほとんどがPsに比べて低い酵素阻害活性しか示さなかったが、ラクタム誘導体の一部とフタル酸ジメチル体はモルモット乳頭筋の陽性変力作用の濃度依存範囲を広げた。またラクタム誘導体では酵素阻害活性と置換基のvander Waals volumeとの間に高い相関性が認められた。一方モネンシン、修飾体の陽性変力作用はモネンシンにより低下したが、Na^+イオン輸送能がほとんど同じであることから、陽性変力作用はNaイオンの輸送能より修飾体の脂溶性に依存するのではないかと考えられる。
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