高速液体クロマトグラフィー(HPLC)用電気化学検出器(ECD)は、電極表面で酸化または環元をうける化合物を高感度かつ高選択的に検出することから、体液中超微量物質の分析に汎用されている。本研究はECDのなかでも、ごく最近開発されたクーロメトリック検出器に着目したもので、優れた電気化学活性基(electrophore)のラベル化などにより従来測定が困難であった体液中超微量物質の分析法を確立すると共に、臨床診断、病態解析に信頼度の高い方法論を提供することを目的とするものである。 さきにHPLC/ECDの適用範囲拡大を目的として、易酸化性で酸化環元の可逆性に優れるフェロセンをelectrophoreとするアルコール、グルクロニド用プレラベル化剤の開発を行い、良好な結果を得た。そこでフェロセンをelectrophoreとし、脂肪酸には活性ハロゲン、チオールにはマレイミドを反応活性基とするプレラベル化剤を調製し諸性質に検討を加えた。その結果、前者には3ーbromoacetyl-1′+dimethylferrocene、後者にはN-(ferracenyl)maleimideが最も優れた結果を与えた。ついで、N-(ferroceny)maleimideを生体内グルタチオンの定量へ応用したところ、クーロメトリック検出器は従来のECDに比しより高感度、高選択的な応答を示し極めて有用なことが明らかとなった。 さらに、HPLC/ECDによる光学異性体分離用試薬として初めて、R-(-)-1-ferrocenylethylamineを開発し、抗炎症薬であるibuprofenの分離定量へ応用した。誘導体化は緩和な条件下定量的に進行すると共に、異性化等もみられなかった。また、逆相系モードにも抱らずR、S体の分離が20分以内で完了した。(±)-Ibuprofenを健常人に経口投与し、血中濃度測定を応用したところ、良好な結果が得られ、本試薬の有用性が確認された。以上のようにHPLC/ECDは生体成分の分析に有用であるが、特にクーロメトリック検出器は感度、選択的に優れるものであった。
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