ペプチド性医薬品の陰嚢表皮からの吸収機構を解明するため、ラットを用いた実験系を確立して前年に引き続き薬剤学的、薬理学的、組織学的検討を行い、以下のような結論を得た。 1.インスリン (1)インスリンの陰嚢からの吸収は極めて困難であるが、セロファンテープによる角質部の物理的剥離、エイゾン、サリチル酸による化学的角質除去により吸収が増大する。陰嚢の角質層は他の皮膚角質層よりかなり薄いため、除去が容易であり、少量の薬物投与であれば陰嚢は投与ルートとして利用可能であると予測された。 (2)近年米国で開発されたイオントフォレシス(イオン透過装置)により弱電解質であるインスリンの電気的透過促進を検討した結果かなりの透過促進が認められた。この吸収促進は負荷電流の上昇(1〜4mA)するが、皮膚刺激、表皮の組織変化もそれに伴って増大した。従ってインスリンの吸収を電気的に促進させるには限度があり、インスリンに関しては実用化が困難と考えられた。微量で作用する薬物の場合のみ有用であろう。 2.シクロスポリンA (1)インスリンの場合と同様、吸収速度と角質層の関係を組織学的検討を含めて解析した結果、陰嚢表皮の角質層と物理的あるいは化学的に除去した場合はシクロスポリンの吸収が顕著に増大することが認められ、角質層がシクロスポリン透過の主なバリヤーになっていることが明らかとなった。
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