生体内に極微量存在する多種類のモルヒネ様(オピオイド)ペプチドを一斉に定量できる簡便な分析法を開発する目的で、まず、当研究代表者らが開発したN末端チロシン含有ペプチド類に極めて特異的なヒドロキシルアミンーコバルト(II)ーホウ酸塩試薬を用いる蛍光反応をHPLCのプレカラム蛍光誘導体化反応に適応した。その結果、エンケファリンを含むN末端チロシン含有オリゴペプチドはそれぞれ単一の蛍光体に誘導され、しかもそれらは逆相HPLCによって一斉に分離し得ることが分かった。この蛍光検出HPLCは140ー310fmol(HPLC注入量)の検出限界(S/N=2)を示し、生体中のエンケファリンの定量に十分な感度を有していることが分かった。 次に、脳試料の前処理法を検討し、従来の方法よりも簡便かつ迅速に、しかも少量(0.1ー0.5g)の試料を用いてラット脳組織(大脳皮質、線条体、視床下部)中のメチオニンエンケファリン(MEK)およびロイシンエンケファリン(LEK)を一斉に定量できる実用的な蛍光検出HPLCを開発した。しかし、この方法に用いたHPLC用カラム(TSKgel ODS-120T、シリカゲル担体)では、エンケファリン(分子量約500)よりも高分子量のオピオイドペプチドの蛍光体はカラムから容易に溶出しなかった。 そこで、比較的高分子量のオピオイドペプチドも分離し得るHPLCの諸条件を検討した結果、合成硬質ポリマーを担体とする逆相カラムを用いることによって、分子量2000までのオピオイドペプチドの蛍光体の溶出および分離が可能となった。このHPLCにより、ラット脳の線条体中のオピオイドペプチドを検出した結果、LEK、MEK、MEK-Arg-PheおよびMEK-Arg-Gly-Leuの一斉定量が可能になった。また、開発した選択的蛍光プレカラムHPLCを利用すれば、生体内のオピオイドペプチドを種々のペプチダーゼの酵素分解によって容易に同定できることも明らかにした。
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