研究概要 |
本年度の計画に従って, アラニン, フェニルアラニン, バリン, ロイシン, tert-ロイシンの各D, L対掌体よりN-アセチルO-tert-ブチルエステル誘導体を合成し, これらの試料の対掌体混合物のクロロホルムおよび四塩化炭素溶液中における会合構造をNMRやIR等の分光学的手法により推定した. その結果, バリン誘導体において見い出された, アミドNHとエステルC=O間の水素結合に基づく環状二量体がロイシン誘導体においても形成され得ることが明らかとなった. また, 対掌体の非等量混合物が示すNMR現象-self-induced nonequivalence-より, これらの対掌体が形成するL-L(ホモ)二量体とL-DC(ヘテロ)二量体の間には安定性の違いが存在し, ホモ二量体はヘテロ二量体よりも安定であることが明らかとなった. その違いはアミノ酸誘導体のアルキル側鎖の構造に依存し, ロイシンやバリン誘導体は他の三種の誘導体よりも大きな安定性の差を考えた. こうした水素結合による会合形成とその安定性の違いが明らかとなったDL-バリン誘導体を用いて, 対掌体の非等量混合物が示す, クロアトグラフィーにおける溶質ゾーンの分裂を観測し, その理論的な考察を行った. この目的のため, バリン誘導体のラセミ体を^<14>C標識1, 非標識のL体で希釈して試料とした. その結果, この現象がL, D対掌体の混合比とカラムへの注入量(負荷量)に依存し, 注入試料の光学純度が高いほど, また量が多いほど, 各対掌体のゾーンが分離することが明らかとなった. こうした依存性より, 対掌体間の移動相中における会合形成と, ホモ二量体とヘテロ二量体間の安定性の違いが本現象を生み出すと推定した.
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