本研究では、H1ヒストン小成分、H1°ヒストンの相互分離法を確立し、それらの性状解析を行なった。さらに、細胞増殖、各組織間、伐熟過程におけるそれらの発現の違いを明らかにし、個々の小成分またはH1°ヒストンが、それらにおいて、おのおの特異的な役割を担っていることを強く示唆する結果を得た。具体的には、小成分、H1°ヒストンの相互分離は、C18カラムを用いた逆相高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で短時間で可能となり、これを用いて単離精製した標品から、マウス、ラットとも5種のH1ヒストン小成分と、1個のH1°を持っていることが明らかとなった。また、マウスの組織においては小成分IVが全H1ヒストン、H1°ヒストン量の40%以上をしめ、また、H1°ヒストンは胸腺、脾臓ではその存在が確認できなかった。マウスの生後の肝成熟過程において、小成分I、II、IIIは次第に減少してゆくのがみられた。小成分IVの量はほぼ変化がなく小成分Vのみ、6週令でその量が最大に達し、以後減少するのがみられた。H1ヒストン、H1°ヒストンの総量は成熟過程でほぼ一定であるが、これら小成分の減少量を補うのはH1°ヒストンの成熟過程での増加であると考えられた。実際にH1°の存在しない胸腺、脾臓では小成分V以外の小成分の量にほとんど変動がみられなかった。細胞周期においては、G_0期で特異的に発現されるのは、マウスBa1b/c3T3細胞では、III、およびH1°、ラットNRK細胞では、II、IIIであった(NRKではH1°はほとんど確認できなかった)。即ち、DNA合成と相関せずに合成されるH1°、小成分III、II(ラット)が、細胞の機能の制御機構に重要な役割を果たしていると考えられる。 また、これらの特異的発現のmRNAレベルでの制御機構を知る目的で、ラットからH1ヒストン遺伝子のゲノミッククローニングを行ない、1個のクローンを得た。
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