白内障罹患者は高齢者人口の増加とともに増えることが確実視されている。しかし発症機作は未解明で、白内障治療薬や予防薬も無いのが現状である。私共はグルココチコイド(GC)療法中に副作用の1つとして発症するGC誘発白内障に興味をもち、動物モデルの開発、発症機作の解明、発症抑止薬の検索などの研究を行なった。その結果、鶏胚(15日齢)にヒドロコルチゾンなどのGCを過剰投与すると48時間後にはほとんどすべての鶏胚に白内障が発症し、種々の実験から他の白内障と同様に白濁過程に酸化傷害が介在することが判明し、さらに組織化学的研究、レーザーラマン分光分析などて本白内障の特性が明らかになった。そしてGCの水晶体への直接作用よりむしろ肝などへの多岐多彩な作用が異常亢進し、リスクファクターが産生され、血中へ流入しこれが水晶体に影響している可能性を示唆した。以上の知見を基にラジカルスカベンジャーのアスコルビン酸、トコフェロール、チオプロニンの効果を調べたところいずれも発症を抑制した。また白内障発症の誘因がGCの肝での糖代謝の異常亢進作用によるものと考え、肝機能を代謝中間体の投与で修整し白内障発症を抑制することを試みた。その結果TCAサイクル中間体であるイソクエン酸が顕著な抑制効果を示した。以上の発症抑制効果を示した化合物はGC投与で誘起される水晶体成分(グルタチオンの低下、過酸化脂質の上昇)、血中成分(ブドウ糖分、脂質、過酸化脂質の上昇)変化を抑制した。PQQも白内障予防効果を示した。 本研究は白内障の動物病態モデルを確立し、抗白内障薬開発のための1つのスクリーニング法として利用できる可能性を示した。また、白内障の発症機作を全身レベルから究明しその予防法のほかGC誘起副作用を減少させる方法の基礎データとして貢献し得た。
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