研究概要 |
CM-セルロース, ユンカナバリンA-セファロース, 水銀セファロース及びセファデックスG-100を用いた一連の分離操作によって, ラット腎皮質抽出液からカリクレイン前駆体の活性化に関与する酵素を精製した. 最終段階のゲル濾過法により, 3種の活性化酵素分画が得られ, 溶出順にActivatorI,II及びIIIと命名した. それらのうち最も高分子量の酵素(ActivatorI)はSDS-ポリアクリルアシド電気泳動において分子量57,000の単一なタンパクバンドを示し, 糖タンパク染色においても同じ位置に単一なバンドとして認められた. カリクレイン前駆体の活性化におけるActivatorIの至適pHは4.5付近であり, pH7.0以上では, 本酵素による活性化反応は認められなかった. また, ActivatorIによるカリクレイン前駆体の活性化はチオールプロテアーゼ阻害剤により抑制されたが, セリン及びメタルプロテーゼ阻害剤によっては影響をうけなかった. 以上の結果より, ActivatorIは糖タンパク性のチオールプロテアーゼの一種であることが判明した. 一方, ActivatorII及びIIIに関しては, それぞれの均一標品を得ることはできなかったが, ActivatorIと同様にチオールプロテアーゼであることを認めている. 次いで, 活性化酵素の測定法を考案し, その動態を調べた. その結果, 腎におけるカリクレイン産生の調節因子の1つとして知られているアルドステロンは, カリクレイン前駆体の生合成を促進するが, その活性化には影響しないことを明らかにした. 一方, 合成糖質コルテコイドであるデキサメサゾンの投与は, 腎における活性化酵素に対して抑制的に作用した. 以上の知見より, 腎カリクレイン前駆体の活性化に関与する酵素の生化学的性質と, その調節機構の一端を明らかにした.
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