1.ラット尿より腎由来の組織カリクレイン及びその前駆体を精製し、逆相系高速液体クロマトグラフィー(RP-HPLC)を行った後、それぞれの分解により分析した。その結果、カリクレイン及びカリクレイン前駆体ともにN末端から25残基のアミノ酸が同定され、カリクレイン前駆体の8残基目からのアミノ酸配列はカリクレインのN末端からのアミノ配列と一致した。したがって、カリクレイン前駆体は7残基のアミノ酸からなるプロペプチドをカリクレインのN末端に有していることが明らかになった。また、カリクレイン前駆体とトリプシンをインキュベートした後、RP-HPLCによる分析を行ったところ、保持時間24分に、215nmの新たな吸収ピークが出現した。このピーク成分のアミノ酸配列は、Ala-Pro-Pro-Val-Gln-Ser-Aroであり、カリクレイン前駆体のN末端側7個のアミノ酸配列と同一であった。以上の結果より、カリクレイン前駆体はプロテアーゼの作用により7残基のアミノ酸から構成させるプロペプチドを遊離し、カリクレインに転換することが判明した。 2.カリクレイン前駆体の活性化に関与する腎内酵素の一種(ActivatorI)をすでに精製していたので、本活性化酵素に対するウサギ抗血清を作製し、その臓器分布を調べた。その結果、ActivatorIは腎臓及び顎下腺に存在することを認めた。しかし、膵臓ではカリクレイン含量が多いにもかかわらずActivatorIの存在を確認することはできなかつた。したがって、ActivatorIによるカリクレイン前駆体の活性化反応には、臓器特異性があると推察される。 以上、本年度はタンパク化学及び免疫化学的な面からカリクレイン前駆体の活性化機構の一端を明らかにすることができた。
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