研究概要 |
長野県下における恙虫病媒介種であるフトゲツツガムシが, 日常生活域に生息することを確かめた. そこで, 流行地では居住域で羅患している可能性があると考え, 恙虫病の患家周辺に生息する恙虫類を調査した. その結果, 患家の宅地内, 隣接水田畦畔などに媒介種の発生を認めた. 従来未調査であった平坦部の水田地帯で, 水田の畦畔にフトゲツツガムシが高頻度で見付かる点を重視し, 殺虫剤の永年空中散布区と無散布区における本種の発生量を比較したところ, 両区に差異は認められなかった. したがって, 現在実施されている殺虫剤の空中散布は, 恙虫病媒介種の発生量に影響を及ぼしていないとみなした. 水田畦畔に実験用マウスを約40時間設置してフトゲツツガムシを寄生させ, 回収したマウスと恙虫からddY素マウス接種法によるリケッチア分離を試みたが, 陽性例はなかった. 弱毒リケッチアの浸淫のありうる点を考慮して, 来年度には媒介種生息域における暴露マウスの抗恙虫病リケッチア抗体価を間接蛍光抗体法によって測定し, 媒介種の日常生活域における発生と病原体汚染との関連性を究明することにする. このための技術的な研修を, 本年度内に終了した. 恙虫病の流行地と非流行地において, 田畑の畦畔から土壌を採取して生息する恙虫類を比較した. 一部の非流行地では, 流行地と同様に, 媒介種が高密度で生息することが確かめられた. 来年次には調査地域を拡大するとともに, 非流行地における病原体浸淫状況を併せて調べる予定である. 2種の媒介種が分布する愛知, 静岡両県下の恙虫病流行は長野県下のそれとやゝ異なることを確認した. 長野県下で, 標高1,100-1,600mの範囲内のフトゲツツガムシの生息状況を調査した結果, 高地における本種の生息密度は, 900m以下の低地のそれより著しく低かった. 恙虫病の予防上特に注意すべき範囲が示唆されている.
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