本年度は、長野県中部の水田域に生息するフトゲツツガムシからの恙虫病リケッチア分離と、2種の恙虫病媒介種が生息する静岡県御殿場地方における媒介種の分布調査を実施した。なお、御殿場地方の調査は静岡県衛生環境センターと共同しておこない、得られた媒介種の未吸着幼虫をリケッチア分離に供した。長野県下3地点の水田畦畔からのフトゲツツガムシ約500匹を20プールに分け、免疫抑制下のddYマウスに接種したが、1989年3月20日の時点ではリケッチアは分離されておらず、現在継続観察中である。御殿場地方の調査の結果、フトゲツツガムシはこれまで長野県下で観察されたと同様に、至る処に生息していた。好発地は大型水田畦畔にあり、従来の研究成果と併せて、近年における区画整備事業の進展に伴う大型水田畦畔の出現が本種を多発させる要因になっているものと推察した。約650匹のフトゲツツガムシを23プールに分けてddYマウスに接種したところ、これまでに水田畦畔と路傍由来の3プールが恙虫病リケッチア陽性であることが分かった。何れも初代マウスが定形的に発症するマウスに強毒生リケッチアであることが確認された。一方、タテツツガムシの分布はより限局的であり、本種は水はけの相当良好な場所に生息するものとみられた。当方で分離に供した5プール125匹のタテツツガムシはすべて病原生リケッチア陰性であったが、静岡県衛生環境センターでは本種からリケッチア1株の分離に成功している。現在、分離されたリケッチアの抗原生を検討中であり、これまでにフトゲツツガムシおよびタテツツガムシ由来株がそれぞれkarp、Gilliam型であることを確かめている。長野県南部と御殿場地方の恙虫病媒介性恙虫からマウスに強毒性のリケッチアが比較的容易に分離されるのに対して、長野県中、北部のフトゲツツガムシからこれまでリケッチアが分離されていないことから、マウスに毒性の低いリケッチアの浸淫のあることが考えられる。
|