研究概要 |
ヒスタミン受容体は脳内に広く分布しており, 特に摂食の行動に深く関与する視床下部には多く分布している. しかし脳内神経ヒスタミンの摂食行動への関与は解明されていない. 今回は両者の関連を明らかにする目的で, 各種のヒスタミンH_1受容体拮抗剤, H_2受容体拮抗剤をラットの中枢に投与し, 行動発現, ニューロン活動, 液性応答を測定した. 用いたすべてのH_1受容体拮抗剤は第III脳室内投与で量反応性の摂食誘発作用を有した. 一般活動量の測定, 飲水量の測定等の結果より, 2次的な作用でなく, 直接摂食を調節していることが明確となった. H_2受容体拮抗剤の投与は摂食行動に影響を及ばさなかった. さらに視床下部諸核における作用部位の同定を, 局所微量注入法を用いて行った. その結果, H_1受容体拮抗剤による摂食誘発作用は, 視床下部腹内側核を介して発現していることが判明した. 同部位のニューロン活動の多連微少電極法を用いての測定では, その活動はH_1受容体拮抗剤で抑制され行動実験と一致した. また, 血中グルコース, インスリン, 遊離脂肪酸等の体内の液性応答も, 摂食行動, ニューロン活動の結果と一致するものであった. 以上の様なH_1受容体拮抗剤の作用を, α-fluoromethylhistidine(α-FMH)で前処置後に検討した. α-FMHは肥満細胞由来のヒスタミンには影響を及ぼさない神経性分泌ヒスタミンの特異的合成阻害剤である. α-FMH前処置で脳内分泌ヒスタミンを減少させるとH_1受容体拮抗剤の作用は, 著しく減弱した. また, ラット脳内の神経性分泌ヒスタミン濃度が減少する暗期直前にもその作用は消失した. 以上の結果から脳内の神経性分泌ヒスタミンは主に視床下部腹内側を介して, 摂食抑制性に働いていること, その作用はH_1受容体を介して発現していること, 脳内ヒスタミンが摂食行動の概日リズムに関与していること等が明らかとなった.
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