研究概要 |
実験動物のラットを材料に胃組織中の胃粘液糖蛋白質に関して以下の3点を中心に検討した. (1)胃の部分による比較:胃酸を分泌する胃底腺を有する胃体部と幽門腺を含む前庭部について比較した. (2)系統に関する比較:実験的にラットに胃潰瘍をつくることが出来るが, 潰瘍にかかりやすい系統とかかりにくい系統があり, それらについて比較した. (3)酸に対する胃粘液糖蛋白質の量的変動:酸分泌促進剤により内的に酸分泌を亢進した場合と塩酸を経口投与して外来性に胃内を過酸にした場合に関して比較した. その結果, ラットの胃の粘液糖蛋白質は胃体部でも前庭部でも分子量が600万以上と非常に高分子であり, また, 蛋白質分解酵素で消化を受て低分子化するが一様に分解を受けるのではなく分子量が40〜50万ごとに蛋白質分解酵素に感受性を示す部位を有する構造であることが明らかになった. また, ブタやヒトの胃粘液糖蛋白質はジスルフィド結合を還元切断することによりサブユニットに解離するが, 50万になるという説と200万になるという説が存在する. ラットの場合には前庭部では40〜50万のサブユニットよりなり, 胃体部では40〜50万と200万以上の2種類のサブユニットよりなることを明らかにした. 以上の点にかんしてラットの系統(Wistar,SD,Donryu)によって定性的には相違は認められなかった. アスピリンで急性の胃粘膜障害を作ると粘液糖蛋白質は胃大部でも前庭部でも量的に低下するが, 胃体部では分子量が200万以上のサブユニットが40〜50万のサブユニットに比べ相対的に増加することが観察された. 酸に対する影響は粘膜表面のpHが3以下になると粘液糖蛋白質は減少したが, 酸分泌刺激剤(ヒスタミン・ガストリン)投与で粘膜表面のpHが3以下に低下させる直前の用量で粘液糖蛋白質量を増加させた. この現象は塩酸の投与では認められなかったことから, 胃酸分泌にともなって生じる何らかの生体防衛反応と考えられた.
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