本研究ではヒスタミン (Hi) を酸分泌刺激物質として使用し、酸分泌状態下における胃粘膜防御機構の変動について考察を加えると共に、Hiの胃粘膜に対する多面作用を実証した。1.Hiは0.6N塩酸誘起胃粘膜損傷の発生に対し用量依存的な抑制効果を有し、この作用がH2受容体を介し、しかも内因性PGsにより仲介されるものであることが判明した。また、Hiの粘膜保護作用は機能的には胃運動の抑制と関連性を有しており、恐らく、粘膜ヒダの緩解がcytoprotection現象において重要であることが推察された。2.1) と同様な現象は胃アルカリ分泌においても観察され、HiはH2受容体を介するPGsの増加により胃アルカリ分泌を亢進させることが判明した。また、アルカリ分泌を上昇させるHiの作用が十二指腸ではみとめられないことより、HiとPGs生合成の関連性は胃粘膜に限局されており、恐らく、酸分泌細胞が上述した反応に深く関与していることが推察された。3.Hiは生理学的用量ではそれ自身胃粘膜に対し損傷誘発作用を有さないが、大量dmPGE2の存在下では血管透過性を亢進させることにより、鬱血を主徴とする胃粘膜障害を誘起することが実証された。4.また、酸分泌刺激用量のHiは既存の胃粘膜損傷の治癒過程に対し遅延作用をおよぼすことが明らかとなった。5.以上、今回の実験で得られたHiの胃粘膜保護作用及び胃アルカリ分泌促進などの反応は、酸分泌状態での胃粘膜の合目的な生理機構を反映するものであり、恐らく、攻撃因子である酸分泌が亢進している状態下では防御因子を構成する他の機能も合目的に変動することにより、終局的に胃粘膜の耐酸性を高め、攻撃・防御のバランスを維持していくものと推察される。Hiは本来的には"必要悪"ではなく、恐らく、粘膜内PGsとの相互作用を通じ、胃粘膜の環境に応じた拮抗と協力を繰り返しながら、胃機能の微調節において重要な役割を果たしているものと推察される。
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