オピオイド活性を示す内因性物質・エンケファリン(ENK)は生体内に投与すると、その代謝酵素により迅速に、その生理活性が失なわれる。現在までに、生体内によりモルヒネ様ペプチドが数多く発見されたが、この様に安易に失活・分解することにより、疾患時にその役割を適格に把握することは不可能であった。更に、何故、体液中に様々なオピオイドペプチドが存在しているか。この様な物質が疼痛などの疾患時にどのような機能的役割を果しているかを解明することを目的として、我々は申請した。本年度、体液中のENK様物質の生理機能に関する研究する上で、簡便で再現性のある独自の測定系を考案した。既ち、体液中より低分子物質ENKを如何にして、その代謝酵素や結合蛋白質と分離するかを問題にし、従来の方法に透析法を導込した。その結果、ヒト血清を水に対して一晩透析し、外液をODSカラム、HPLCでENK様物質を精製し、RIA法で140Pg/ml前後含まれていることを明らかにした。正常ヒト脳脊髄液中にENKは365Pg/ml、性別・年齢により有意差は認められなかった。更に、疼痛疾患時に如何なる動態を示すか検討し、下肢外傷の急性疼痛群において正常人と比較し、3倍以上の高値を示した。併し、癌などの慢性疼痛時において115.4Pg/mlと低値を示した。一方、妊娠時におけるβーエンドルフィンは妊娠後期に高濃度に分泌され、分娩時における痛みの制御に主要な役割を果していると考えられている。妊娠時の血清中におけるENK様物質は、初期に顕著な動態を示した。既ち、妊娠初期5〜6週において483Pg/mlと変常に高値を示した。体液中におけるENK様物質は脳神経細胞、脳脊髄、副腎髄質などより由来し、中枢系の疼痛制御および妊娠初期にENKが分泌促進され、生体の防御機構に重要な生理機能を担っている可能性が示唆された。
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