ヒトα_1ーT glycoprotein(α_1ーT)は、Tryptophan-free-glycoproteinとも呼ばれる糖蛋白質である。前年度、著者はα_1ーTの血清からの精製法を確立し、特異抗体(モノクローナル、ポリクローナル抗体)を準備、更に、Single Radial Immunodiffusion(SRID)、酵素免疫法(EIA)を確立した。本年度はこれらの成果を基礎にして、α_1ーT測定の臨床的意義に関してより詳細な研究を行った。年令10才〜60才までの健常者の血清α_1ーT濃度は71.8±12.3mg/lであり、全年令を通して、男女差、性差が認められなかった。また血中での日内変動、日差変動等もなく安定であった。一方、種々の病態・疾患での血中変動では、腎疾患、肝疾患などで低下があり、また、肝炎の回復期、白血病における抗腫瘍剤の投与などの中止によっても増加が観察され、これらの変動は血中アルブミン値、ユリンエスラーゼ値などと良い相関性が得られた。以上の結果から、α_1ーTの主要産生部位は肝臓であり、ことに肝実質細胞障害度を反映する新しい指針となることが示された。そこで、種々のcell lineを用いて培養上清を用いてその存在の有無について検索したが、これまでのところ、肝癌細胞、リンパ球、単球等の培養株での産生は証明されていない。尿中α_1ーm濃度は、正常者14名で0.02mg/日であり、慢性腎不全ではその排泄量が増加する。他の検査所見、α_1ーT fractional clearanceの算定などから、α_1ーTは他の蛋白とほぼ同様の処理を受けると推定され、また、尿細管からは少なくとも分泌されていないことも新たに明らかにされている。α_1ーTの研究の過程から得られた成果、研究設備(HPLC、カラム器具、EIAプレート)などを用いて、β_2ーマイクログロブリン、α_1ーマイクログロブリンなどの研究も並行して行い、応分の成果を得た。
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