WKY心の形態学的異常として、正常血圧下の心重量の増加、心室中隔の非対称性肥厚、右室壁肥厚、右室内腔の狭小可、筋繊維及び筋原繊維の錯綜配列、心筋組織の線維化、冠状動脈の壁肥厚、その他細胞小器官の超微構造の列、異常等が挙げられ、これらはすべてヒト肥大型心筋症の特徴に合致する。8ー10週令の約300匹のWKYの心電図を記録し、心の所見と対比した結果、肢誘導のいずれかで0.5mV以上、及びT波0.25mV以上の診断基準を適用すると、53%のsensitivityと99%のspecificityでWKYにおける著名な心肥大の生前診断が可能である。その他、QRSの軸偏位、波形の変形、及びP波増高等も診断に有用である。現在、この所見に基づいて選択交配を継代中である、但し、WKYラットは既に30代以上を経た近交系であり、しかも近交開始の時点での遺伝子異常の存在を示唆する所見がある。ちなみにWKY心を上述の所見に関して厳密に定量して正常ラット心と対比すると95%に何らかの異常が認められる。このことは、遺伝子異常は既にWKYラットに広く分布していることを示し、選択交配により心異常の程度の強い系を分離するには大きな忍耐が必要と思われる。継代中のWKYラットを用いて、約200匹の胎仔及び新生仔を産生し、その心血管系について調べた。心重量の異常増加は、生後にはじめて起こった。胎仔に認められた顕著な異常は、動脈管が明瞭な低形成を示したことである。細い動脈管は胎生期に右心室の圧負荷となり、心筋線維は右室圧発生に有利に構築されると考えられる。ちなみに、心室中隔の中層線維は正常心とは反対に右室壁との連続を示した。この構築は、生後の左室優位の圧発生に不利であり、ひいては生後の種々の心筋異常に連なると考えられる。また、WKYを正常ラットと交配し、雑種第一代で上述の所見について調べた結果、それらは常染体優性の遺伝形式に従うことが判明した。
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