研究概要 |
2年間にわたり実施した本研究では、40週齢以降の雌ddYマウスに、腸管(バイエル板)抗原感作+肝臓細網内皮系機能抑制操作を行なう事によって比較的効率良く殆どの動物にIgA免疫複合体の糸球体沈着を惹起させうる事ができた。 また、それら糸球体の電顕検索に於いて、部分的なmesangial matrixの増生やsubmesangial regionのdense deposit,finger prints様構造などヒトIgA腎炎に報告されている特異像が確認された。 しかしながら、ヒトIgA腎炎で必ず見られる血尿は殆どの例で認められず、幼若4〜10週齢の雌や雄ddYマウスでは、前記の様な所見は惹起されずヒトIgA腎炎モデルとしては、まだまだ、解決すべき問題点を多く残している。 これらの問題点のうち、63年度研究では、成獣雌ddYマウスにしばしば報告されているレトロウィルス起因の乳腺癌と血清IgA値の高値に注目し、上記の腸管抗原感作+肝臓細胞内皮系機能抑制操作の比較の意味で、乳腺抗原感作+肝臓細網内皮系機能抑制操作を行ない、腎糸球体へのIgA沈着を調べた。 その結果、腸管抗原感作例のようなIgA免疫複合体の糸球体沈着はみなかった。この所見は腸管IgA由来免疫複合体がIgA腎炎発症に主として関与するものとして注目される。 肝細網内皮系もまた、今回のIgA沈着に重要な役割を担っている事が示されたが、肝障害モデル動物など用い、今後、検索を続けたい。 今回の一連の研究では、電顕観察可能なパーオキシダーゼ(HRP)を単独抗原として用いたが、少しでも高率にヒトIgA腎炎に近い発症を惹起させるため、hanptenなどの併用の検討も、今後追試したい。
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