研究概要 |
1.酢酸銅と蟻酸銅二量体の構造比較 酢酸銅をはじめとして, カルボン酸銅は2個の銅原子を4個のカルボン酸イオンが架橋した構造をとる. 2価の銅原子はスピンを持つため分子内の銅原子の間でスピン交換が起こる. 磁化率の温度変化からスピンースピン相互作用は反強磁性的であり, 一重項状態が三重項状態よりもエネルギーが低い事が知られている. このエネルギー差, ー2Jでスピン交換相互作用の大きさが測れる. 酢酸銅のー2Jが約300cm^<-1>なのに対し蟻酸銅二量体のー2Jが約500cm^<-1>と異常に高く, 相互作用が大きい. この現象は古くから知られていたが, その理由はまだ解明されていない. CuーOやCu…Cu距離などの分子構造の違いと磁性とに相関があるかどうかを調べるために〔Cu(RCOO)_2L〕_2, R=CH_3またはH,軸配位子L=ピリジンまたは尿素の結晶構造の精密解析を行い, 〔Cu(CH_3COO)_2Py〕_2の多形の構造差をもとに分子構造の違いの有意性を検討した. 「蟻酸銅の方がCu原子のまわりの配位形の対称がやや高く, またCuーO結合距離がわずかに(約0.008(2)〓)長いものの, 磁性と構造との相関はほとんどない事が明らかとなった. 2.酢酸銅および蟻酸銅ピリジン錯体の電子密度分布 架橋カルボン酸および銅原子のまわりの電子密度分布に本質的な違いがあるかどうかを調べるために, 低温(120K)でX線強度測定を試みた. 酢酸銅錯体については電子密度分布を観測できたが, 蟻酸銅ピリジン錯体は予想以上に結晶の風解が速くて精度の良いデータは得られなかった. そのかわり, CH_3COOLi結晶などを用いて配位子である蟻酸イオンおよび酢酸イオンの電子密度分布を実験(低温でのX線精密解析)および理論(分子軌道計算)の両面から検討した. この結果, 蟻酸および酢酸イオンのカルボキシル基部分には差がない事が判明した.
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