カルボン酸銅(II)二量体は通常いわゆる酢酸銅型二核構造をとり、銅原子のまわりの配位環境は四角錐形である。しかしトリクロロ酢酸銅に関してはesrスペクトルより、三角両錐形に歪んでいると予想されるものもあり、しかもその-2J値が小さい事が知られていた。カフェイン付加体については、再結晶溶媒を変えると数種類の結晶構造を作り出せ、しかもそれらの-2J値が136〜220cm^<-1>と異なっている。そこで構造と磁性の相関を調べるために、3種類の結晶についてX線構造解析を行った。いずれの結晶中でも4本架橋のかご型2核錯体が確認されたが、特に-2J=136cm^<-1>の結晶中では三角両錐形に歪んだ配位が見い出された。興味深い事に、-2J値とCu^<111>Cu距離とには強い負の相関が見られる。Cu^<111>Cu距離のかわりにCu-O-C角の123°からのずれの平均値を用いても-2J値と良い相関がある。三角両錐の軸方向のCu-O結合距離が三角面内のCu-O距離よりも短い事から、Cu^<2+>のスピン密度はdz^2軌道に存在すると予想される。しかし2つの銅原子のまわりの三角両錐の軸方向はねじれの関係にあるため、架橋カルボキシル基を通してのスピン交換が起こりにくくなる。以上の理由から配位環境が四角錐形から三角両錐形に歪む程、-2Jが小さくなると考えられる。この構造と磁性との相関は、その他のトリクロロ酢酸銅付加体についても構造解析を行い、確認した。 二本架橋をもつ二核銅(II)錯体、〔Cu(RCOO)(phen)(H_2O)〕_2(NO_3)_24H_2O(R=HおよびCH_3)の構造解析を行った。-2Jがそれぞれ125と86cm^<-1>であるのにもかかわらず、幾何構造には特別な相違点はなかった。酢酸に比べてギ酸イオンの方が架橋カルボキシル部分の電子数が多いためにスピン交換相互作用がより大きくなるものと考えられる。
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