研究概要 |
妊娠課程での栄養障害により低出生体重児や奇形児の出生がみられる, というヒトの疫学例を単一のビタミン=ナイアシンの欠乏実験によって, マウスで証明した. ナイアシンは妊娠期のみならず小児期の栄養上重要なビタミンでありながら, その作用機構や欠乏による障害が充分解明されていない. 我々はニコチンアミドの強い奇形抑制効果および抗腫瘍性を明らかにした. 又, 胎盤, 胎児, 腫瘍への^<14>C-ニコチンアミドの著しいとり込みから, その作用機序の一端を証明したが, 今後の研究課題は, 作用機序解明のための方法を模索することと癌以外の疾病に対するニコチンアミドの予防ならびに治癒効果をも証明することにある. 従って本研究の目的は, ナイアシン欠乏の妊娠に与える影響と代謝異常病理上の影響を調べることにあった. I.妊娠前半期(B群), 妊娠後半期(C群), 妊娠前(A群)にナイアシン欠乏飼料を投与した結果, 妊娠19日目の母体体重, 臓器重量, 胎児の体重はC群で顕著に減少した. それぞれ正常な場合の約60%, 55%, 70%の値で, とくに母体肝重量の著減はナイアシン代謝上の重要性を意味すると思われる. 2.妊娠率はB群で38%, C群で88%, A群で64%であった. B群での著しい妊娠率低下は, ヒトでの妊娠前半期におけるナイアシンの役割りを示唆すると思われる. A群(11〜20日間)でも妊娠率がやや低下したことは興味深い結果で, 妊娠以前のナイアシン欠乏も妊娠に影響を及ぼすことになる. 3.B群で奇形(Open-eye,外脳症)の発生がみられた(3.4%)ことは予想外の結果であり, 栄養学上新たな知見である. 62年度はナイアシン欠乏による妊娠障害と栄養障害の一部を明らかにした. 63年度はニコチンアミドはニコチン酸によるその回復を調べる他, 栄養生理学的異常の検索を主として行い, 研究目的の一歩近づいた実験結果が得られるものと期待している.
|