研究概要 |
妊娠過程におけるナイアシンの欠乏ならびに過剰の影響、特に奇形の発生に関する報告は、現在のところ疫学例、動物実験例共にみられない。前年度の実験で、妊娠前半期9日間をナイアシン欠乏にした場合に奇形の発生がみられた(3.5%)ため、その真偽を更に明らかにする目的で、今年度は主として妊娠全期間(19日間)にわたってナイアシン欠乏飼料を投与した場合の妊娠障害と栄養障害を調べた。妊娠19日目の胎児に高頻度(9.2%)で口蓋裂の発生がみられ、母体では膵臓の異常が顕著に認められた(11/80,13.8%)。一部の標本を組織学的に検索したところ、明らかに妊娠経過と共に、特に妊娠後期に著しい膵組織の崩壊が観察された。これは妊娠した場合にのみ特異的にみられたもので、妊娠中のナイアシン欠乏が母体の膵機能にダメージを与えるという興味深い結果は、本研究の計画意図を実証する有意義な知見である。血清値の測定結果は、コントロール値に対しグルコース、尿酸、総コレステロール、HDLコレステロールがそれぞれ56.9%、73.4%、99.6%、70.2%であり、グルコース値の著しい低下が認められた。ニコチンアミドをそれぞれ1%、0.5%、0.25%添加して投与したところ、奇形の発生は0.25%で1.9%に抑制されたが高濃度では逆に毒性がみられた。膵障害に対してはニコチンアミドによる回復は得られなかった。一般にはナイアシンが前駆体となるNAD^+が栄養生理的に重要な機能を果たすと考えられており、妊娠過程を経時的に摘出した母体臓器、胎盤、胎児中のNAD^+値の測定を現在進めつつある。ニコチンアミド欠乏にした細胞にニコチンアミドを添加した場合に逆にMutationが強く起るというinーvitroの報告と今回の結果はよく似た傾向にあり、ニコチンアミドが単にNAD^+の前駆体としての栄養作用ではなく、別の作用機序で奇形や癌の抑制に働いている可能性を示唆しているとも思われるが、これは今後の課題となった。
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