本研究は、ニコチンアミドの奇形ならびに腫瘍抑製作用機序を明らかにすると共に、糖尿病をはじめとする種々の疾病に対する有効性を知る一方法として計画したものである。ナイアシンは糖やアミノ酸の代謝等生理機能上、重要な役割を果たしており、その欠乏により、何らかの代謝異常がとくに妊娠期には顕著におこるであろうことが予測できる。現在のところナイアシンの欠乏ならびに過剰の影響、とくに奇形の生に関する報告はみられない。そこで、妊娠期間をいくつかの実験群に区分して、指定の期間マウスをナイアシン欠乏飼料にて飼育した後、妊娠障害と栄養障害を調べた。 妊娠全期間(19日間)を欠乏飼料で飼育した場合、妊娠率は有意に低下した(66.7%)。妊娠19日目の胎児に高頻度で奇形(口蓋裂)の発生がみられた(11.5%)。母体で膵臓の異常(膵炎?)が顕著にみられたのは予想外の結果であった(11/18、61%)。一部の標本を組織学的に検索したところ、明らかに妊娠経過とともに、とくに妊娠後期にいちじるしい膵組織の崩壊が認められた。妊娠中のナイアシン欠乏が、いかなる機序で母体の膵機能に影響を与えるかは今のところわからないが、興味深い知見となった。血清値の測定結果は、コントロール値に対しグルコース値が著しくなった(56.9%)が個体差が大きく明確ではない。 二年間でナイアシン欠乏による妊娠障害や栄養障害を実証することができたので、この成果もまた違った観点から展開したいと考えている。
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