本年度の研究は、ほとんどが昨年度からの継続のものである。マイクロリーダーを用いてマイクロフィルム版の文献資料を解読し、カードを利用した整理などを進めている。また本年度には、この研究における利用価値の極めて高い、貴重なドイツ体育古典文献シリーズの古書が入手できたので、この資料の分析もはじめ、その作業は来年度へも引きつがれる。具体的に資料の解読、整理という研究作業を進める中で、新たに考えられてきたことは、ドイツの体育(具体的にはトゥルネンも含み、スポーツといってもいい)の領域でUbungの語が用いられるようになったのは余り古いことではなく、大体18世紀末から19世紀はじめの頃だったということである。Ubungは「運動」とも訳されるが、この語は常に「訓練」的色彩をおびて用いられているように思える。古くから用いられてきたGymnastik系の用語がほとんど訓練的色彩をおびていなかったのに対して、Ubungがこの時期に使われはじめているという事実は、今後更に検討されるにふさわしい興味深い問題だと思う。またトゥルネン(ドイツ体育・スポーツ)の父ともいわれるヤーンの主著(1816)の英訳版(1828)を入手することができ、ドイツ語術語の英訳語との比較が可能になりつつある。トゥルネンの国際化を検討することは、それがスポーツの国際化が進行するより約一世紀近く前のことであるだけに、体育やスポーツの国際化を検討するうえで貴重な視点が提供されると思う。筑波大学への出張(9月)では資料収集作業だけでなく、そこでおこなわれた国際比較体育・スポーツ学会にも参加し、ドイツ諸圏諸国の研究者との情報交換ができ、極めて有益であった。また長崎大学附属図書館所蔵のドイツ教育史関係文献コレクションを直接調査した(1月)。昨年はその一部をコピーして送ってもらうにとどまったが、この調査でその全体像がわかり、今後の利用を容易にしてくれると思う。
|