ヒト血漿のトリプシン阻害因子のひとつであるインターαトリプシンインヒビター(ITI)の基本構造の解析を進め、ITIは3本鎖構造をしたユニークな阻害蛋白質であることを明らかにした。 1)ITIのN-末端構造:ITIはSDS-PAGEでは210kDaの一本鎖と推定されたが、N-末端分析ではAla-Val-Leuという配列とSer-Leu-Pro-の配列の2種類が同定された。これは、ITIが2本鎖からなり、両鎖は還元処理でも開裂しない特殊な様式で結合していると推定される。 2)ITIの自発的切断反応:ITI の精製過程や濃縮操作において、新しく阻害活性のある140kDaと不活性な70kDaの2フラグメントが生成した。140kDa鎖のN-末端配列はAla-Val-Leu-であり、一方、70kDa鎖の配列はSer-Leu-Proであった。この結果は、ITIの2本鎖間の結合が開裂し、2フラグメントが生成したことを示唆している。 3)ITIのアルカリ処理および酵素的切断:ITIをpH12にすると140kSa鎖と70kDa鎖とに切断され、さらに140kDaは阻害活性のある45 Da鎖と70kDa鎖とに切断された。一方、ITI、140kDa鎖、さらには45kDaフラグメントをヒアルロニダーゼ処理すると阻害活性のある25kDaフラグメントが生成した。これは、25kDaの阻害部位は糖鎖(20kDa)を介して100Daのポリペプチド鎖に結合し、140kD鎖を構成している事を示唆している。 従って、ITIはN-末端Alaの阻害部位鎖(25kDa)、N-末端がブロックされた100kDa鎖、N-末端Serの70kDa鎖の3本鎖からなり、阻害部位鎖と100kDa鎖間は糖鎖で、100kDa鎖と70kDa鎖間はS-S結合以外の結合でつながった構造をしていると考えられる。
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