マクロファージの貪食には、異物を認識しそれを結合する過程と、結合物を細胞内に取り込む2つの過程が含まれる。マウスのマクロファージ様細胞株P388D1は、抗原と結合したIgG抗体のFc部分を認識するレセプターを発現しているにもかかわらず、抗原・抗体複合体を貪食することができない。しかし、この細胞を1.5%のジメチルスルホキシド(DMSO)を含む培地中で培養すると、2日後に90%以上の細胞に貪食能を誘導することができる。マクロファージの分化に伴って糖タンパク質糖鎖に構造変化が起こることが知られていることから、本研究ではDMSO誘導前後でアスパラギン結合糖鎖の構造を比較解析し、糖鎖の構造変化とFcレセプター介在性貪食能誘導との関連性について探った。その結果、以下の知見が得られた。(1)細胞のNP-40可溶化物をSDS-PAGEで解析したところ、タンパク染色では殆んど違いが認められないのに対し、コンカナバリンAを用いたレクチン染色ではDMSO誘導後に、特に30KDa以上の分子量を持つ糖タンパク質の染色度の増加が認められた。(2)DMSO誘導に伴って高マンノース型糖鎖が増加するとともに、3本鎖、4本鎖等の複合型糖鎖の減少がみられたことから、構造変化の背景にはアスパラギン結合糖鎖の生合成上、プロセシングの阻害があるものと予想された。(3)高マンノース型糖鎖の蓄積を起こすプロセシング阻害剤(スワインソニン、カスタノスペルミン)存在下で細胞を培養したところ、阻害剤の容量や処理時間に依存してFcレセプター介在性貪食能の誘導が見られた。以上の結果は、貪食能誘導に伴う構造変化が単に結果として起こるのではなく、誘因として積極的に貪食能誘導に関わっていることを示す。恐らく、特定の分子に高マンノース型糖鎖が発現されることが重要と思われ、今後、分子レベルでの解析が必要と考えている。
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