細胞表面に存在するガングリオシド(シアル酸含有スフィンゴ糖脂質)は細胞組織特異的な分子種分布を示し、細胞の発生分化癌化に伴って構成ガングリオシド糖鎖が大きく変動することが知られる。本研究ではシアル酸転移酵素の異常発現にともなうガングリオシド代謝の変動を遺伝子レベルから解析することを目的とした。〔1〕ヒトメラノーマの癌特異抗原であるGD_3ガングリオシドの発現は、CMP-NeuAC、GM3:α2-8シアル酸糖転移酵素の異常発現によることを明らかにした。〔2〕この異常発現の機序を明らかにする為、GD3発現解析系を確立した。〔3〕GD3高発現ヒトメラノーマ(Beuret)細胞を材料として、ゲノムDNAライブラリーを作製した。コスミッドシャトルベクター(pCV103)を発現ベクターとして用い1.0×10^7KbのゲノムDNAを含むライブラリーと評価できた。〔4〕マウスL細胞におけるGD3の発現をゲノムライブラリーDNAをトランスフェクションすることにより成功した。FACSによりGD3高発現トランスフェクタントからDNAを抽出し、ヒトメラノーマ由来DNAを回収した(in vitro packaging法)。〔5〕制限酵素切断パターンから回収DNAは6種類に分類できることが判ったが、それぞれ単独では、GD3発現能がないことが判った。このことからGD3発現には複数の遺伝子が関与することが予想された。〔6〕これまで核内発現型癌遺伝子(アデノウィルスE1A遺伝子やmyc遺伝子)は、ラット3Y1細胞においてGD3ガングリオシドを発現させる働きのあることを明らかにしてきた。本研究では他のタイプの癌遺伝子(src、fes、fps、ras)についてガングリオシド代謝に及ぼす影響を調べた。その結果これらsrc familyやras遺伝子では、GD3の代りにシアロシルパラグロボシドを発現誘導することが明らかになった。又、このシアロシルパラグロボシドの発現は、同糖脂質を合成するシアル酸転移酵素の活性化による事を明らかにした。
|