生体高分子の代謝に主要な働きをしている加水分解酵素の調節タンパクと見做れるインヒビターの構造の機能、分子進化を化学構造の面から明らかにするため、植物種子の胚乳から分離されるインヒビター及びその関連タンパク質を材料とし研究を行った。オオムギ胚乳のトリプシンインヒビターが、アミラーゼインヒビターと明らかに相同であり、共通の祖先タンパクから、放散的に進化して来たこと、他のインヒビターとの比較から、これらがトリプシンインヒビターとアミラーゼインヒビターの2個のドメインから成ること、恐らく分子量7千程度の各インヒビターの祖先型タンパクの遺伝子が、縮合しその後の変異で現在みられる多様なインヒビター群を形成してきたものと考えられる。ジスルフィド結合位置決定の結果からもこの考えが示唆された。一方アミラーゼインヒビターのドメインと考えられる分子のC末端側1/2は哺乳類すい臓等の分泌型トリプシンインヒビターと類似性が高く、この部分に関しては新たにアミラーゼとトリプシンとのインヒビターが共通の祖先に由来していることも示された。 弱いリパーゼ阻害活性を示す結晶性のタンパクをダイズ胚乳より単離し、一次構造を決定した。部分構造が先のインヒビター類やBowman-Birkインヒビターと共通しており、これらタンパクが一群の大きなファミリーを形成していることを示唆している。その他分子全体がラットのプロラクチンと高い類似性を示し進化的にも興味深い結果を得た。またトリプシン活性を阻害しないが、C末端部分のポリアスパラギン酸配列でトリプシンを結合する特異なペプチドを単離構造決定すると共に、これ等のタンパクの機能を調節し得る翻訳後の修飾アミノ酸を容易に分析するシステムを開発し、これを実際の分析に応用した。
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