1.前年度に作成したtRNA^<phe>変異体のうち、アンチコドンをGAA、およびAAAに改変したものの酵母無細胞蛋白質合成系におけるpoly(U)依存性poly(phe)合成能に関して興味ある点が見い出されたので、さらに詳しく解析した。その結果、リボソームのPーsiteにいずれのtRNA^<phe>があるかにより、隣接のAーsiteのtRNA^<phe>へのペプチド鎖の転移効率が異なることが判明した。このことは、Pーsiteにおけるコドンーアンチコドン対合様式の違い〔tRNA^<phe>(AAA)はコドンUUUとWatsonーCrick型に、tRNA^<phe>(GAA)はwobble型に対合する〕が隣接するAーsiteに結合する次のアミノアシルーtRNAの結合効率に影響し、ひいてはリボソーム上での蛋白質合成速度の調節に関与する可能性を示唆しており、非常に興味深い。 2.予定した計画のうち、U_<33>番塩基の置換を含む二重変異体の作成は、技術的困難に直面してpoly(U)依存性poly(phe)合成能を測定するに十分なだけのtRNA^<phe>二重変異体を調製することができなかった。反応条件等の検討から、この困難の最大の原因は酵母tRNA^<phe>の場合32番塩基が2′ー0ーメチル基を持つCmであるため、U_<33>を他の塩基に置換するのに必要なRNAリガーゼ反応が進みにくいためであるらしいことが判明した。そこで、現在は32位に2′ー0ーメチル基を持たないtRNA^<Tyr>に材料を変更して"二重変異体"の作成を試みている。 3.アンチコドンループの鎖長は通常のtRNAでは7であるが、8であるような変異体、tRNA^<phe>(GAAA)およびtRNA^<phe>(AAAA)を作成した。これらはいずれもフェニルアラニン受容能、poly(U)依存性poly(phe)合成能を示すものの、天然型に比ベると効率はかなり落ちることがわかった。このことはリボソームでの暗号解読にアンチコドンループのコンホメーションも重要な帰与をしていることを示している。
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