研究概要 |
大部分のミトコンドリア蛋白は, N末端にpre-piecedをもつ前駆体として細胞質中で合成され, ミトコンドリアに移行する. pre-pieceが前駆体とミトコンドリア膜との結合に必要であることは, 多くの蛋白質について明らかにされている. しかし, 高分子の蛋白が疎水性のミトコンドリア膜を透過する分子機構は明らかでない. 我々は, ミトコンドリアのATPase活性を調節する三種の蛋白因子の前駆体の膜透過を調べてきた. また, 親水性の蛋白が膜内に疎水性相互作用により埋まり込むことも示してきた. 本研究は, 信号であるpre-pieceにより結合した前駆体が膜を通過する過程のミトコンドリア膜の構造変化を明確にする目的で行っている. すでに明らかにしたように, 塩基性蛋白は酸性脂質膜と相互作用した際, 膜構造がみだされ, たとえば外部からのホスホリパーゼの作用を受けやすなるなどの変化が生ずる. これがミトコンドリア蛋白の膜透過時に生ずるか否かをATPaseインヒビター前駆体に含まれる構造の合成ペプチド, チトクロームCの膜透過型であるアポ蛋白を用いて調べた. その結果, これらの蛋白の結合によりミトコンドリア膜から脂肪酸が遊離することがわかった. この脂肪酸の遊離は限定的であり, 短時間で停止する. このような脂肪酸の遊離は膜を透過できない成熟型ATPaseインヒビターやホロチトクロームCでは観察されず, 膜透過型蛋白に特異的ある. また, 遊離するのはほとんど不飽和脂肪酸であり, ホスホリパーゼA_2の作用であることが示された. 以上の結果よ, ミトコンドリア蛋白前駆体がミトコンドリア膜に結合すると膜構造が変化し, 局在するホスホリパーゼA_2の活性化が起ると考えられる. ミトコンドリア蛋白の膜透過において, 膜に結合した蛋白を遊離させる過程にホスホリパーゼの活性化が関与する可能性がある.
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