アデニレートキナーゼには、組織特異性及び細胞内局在の異なる細胞質型(筋型、AK1)とミトコンドリア型(肝型、AK2)の2種類のアイソザイムが存在する。AK2はミトコンドリア膜間腔に存在するにもかかわらずミトコンドリアへの転位の為のシグナルとなるプレアミノ酸配列を持たない事がcDNA解析から明らかになっている。この特異な膜輸送機構を明らかにする為にAK2cDNAをSP6プロモーターの下流につなぎ、in vitroでmRNAを合成しこれを鋳型にしてウサギ網状赤血球抽出液を利用して、in vitroで蛋白合成をした。合成した本酵素を単離したラット肝ミトコンドリアとインキュベートしたところ、ミトコンドリアに50%以上結合した。一方、AK1は同様の実験を行ってもミトコンドリアに結合しなかった。これにより、AK2にはミトコンドリアへの結合能があるがAK1にはそれがない事がわかった。 AK1とAK2の染色体遺伝子の構造を決定した結果、ヒトとニワトリのAK1遺伝子はいずれも7個のエクソンに分断されているが、イニトロンの位置は動物種にかかわらず同じであった。ニワトリAK1のアミノ酸配列をウシAK2のものと比べると41%の相同性がある。AK1はAK2の全領域にわたってアミノ酸配列が類似しているものの、エクソン5と6の間に約30残基のギャップが存在する。そして、この部分はAK2遺伝子上では1つのエクソンに相当する。AK2は酵母や大腸菌のアデニレートキナーゼと極めて近縁であることを考えると、進化の過程でAK1遺伝子はAK2遺伝子からエクソンを1つ失って生じたという可能性が高い。 以上の事実から、本来膜結合性を持つAK2が生物の系統発生に伴う臓器、器官、組織の分化に対応して分子進化を遂げ、特殊機能の有効な遂行に都合が良いように膜結合能を失い細胞質に局在するにいたったと推察することができる。
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